結果が出ました、と渡された書類を見てマクドナルドは笑顔になった
商品の規格を全世界統一にしているから、あらゆる原材料を世界中から一括で購入することが可能
しかも価格戦略と同時に損益の低いサテライト店を多量に出店している
結果として損益分岐点をモスバーガーより低くできた
ということは、仕掛けても誰もついてこれないということだ
そう思っていても不安だったから実験を重ねてきたけれど、この結果が出たから踏ん切りがついた
「かんぱーい!」
書類に向かって一人でコーラを掲げてみる
前祝いだ
出来るだけ早くけりをつけたい、という決意表明でもある
飲みながら目を瞑ってつん、と炭酸が鼻にくる感覚に目を閉じた
意識が鮮明になっていく感じがする
アメリカではバーガーキングに負けた
ウェンディーズにも負けた
日本でも負けるわけにはいかない
そこまで考えて同業者たちの顔が浮かんで、特に何人かのことを考えてコーラを噴出しそうになった
それでも、素直には笑えない
「怒られるか」
ちょっと呟いてみて首を振った
怒られても、自分から仕掛けたら結果が出るまで止めることは絶対に無い
みんな良い奴だ
良い友達で、良いライバルだ
だから、やるなら全力で行こうと決めた
「頑張ろう!」
もう一度自分に気合を入れて、残りのコーラを一気に飲み干す
鼻の奥がまたつん、としたけれど無視して立ち上がった
作戦開始だ
椅子に座ってお気に入りのクッションを抱えておまけの内容を考えている時にふと思いついた
今までハンバーガーなら自分も、あのムカつくマック野郎も、
同じくらいムカつくファッキン野郎も、様々な種類を考案して売り出してきた
だけれど、甘いハンバーガーを売り出したところはあっただろうか?
俄然やる気が出てきてわくわくと考える
「次さ、思ったんだけどコアラのマーチバーガーってどうだ!」
駆け込んできたメイトに笑顔で聞くと、押し黙られた
やっぱり甘いのはダメだろうかと少しへこんだ時に、彼が押し黙っている理由がそうでないことに気づく
目の前に差し出された紙には走り書きで 『 マクドナルドが低価格作戦を開始 』
思わず口がぽかん、と開いた
一度マクドナルドとは低価格作戦をぶつけあった
当時はバブルで、消費者低価格志向が強くなかったのに
それでも双方共に大幅に体力を消耗していわば引き分けの状態で終わったのだけれど
今はもう時代が違う
一人だけ価格を下げたら、結果はどうなる
青褪めた
吹き飛ばすように席を立ってマクドナルドを怒鳴りつけに行こうとして気づいた
いくら少数で牛耳っているからと言って自分たちは仲間では無い
独り勝ちしようとするのは当然のことだ
なのに何故か泣きそうになってしまった
もしかしたら自分は今までの状況に、少し甘えていたのかもしれない
「対抗して価格を下げるぞ」
自分は大丈夫だ、メイト達がいるから
そう強く決心して握りこぶしを打ち合わせる
売られた喧嘩はとことん買って
どこまでも食らいついてやる
今しがた聞いたことに自分は相当な疲労とショックを受けていたようで無作法ながらも机の上に腰掛けた
のんびり椅子に座っていられる状況ではない、とファーストキッチンは溜息をつく
少数寡占の状態がいつまでも続くとは思っていなかった
しかしこんなに突然崩壊が始まるとは
既存店の売上が落ち込んできたことの何よりの証拠で効果は疑問だ、などと言ってはみたがマクドナルドのことだ
あいつはバカに見えてバカなロッテリアと違ってバカに見えてもバカじゃない
用意周到に計画して実行したことだろう
「とりあえず行けるところまで下げる」
その後は?と内心自分に問いかける
周到に計画された低価格作戦にどこまでついていける?
負けるかもしれないと思った
思わず舌打ちをして腕を組む
新しい策を考えなくては
独り勝ちは許すものか、と考えてからふと気づいた
日本では今までも独走に近かったけれど
アメリカではマクドナルドが一番な訳ではない
その理由に、勝てる秘訣があるはず
「差別化」
呟いてから机から勢い良くおりて反射的にペンを取った
思いつく限りの同業者の名前を並べて、隣に扱っている商品を書き出していく
彼らと差別化を計れば生き残れる
確信してやっと少しだけ笑えた
商売は戦略、戦略を上手く立てたものが勝つ
絶対に負けるわけには行かない
おはようございます、と穏やかに挨拶してくれたモスバーガーに挨拶を返す
並んで花に水をやる開店前の楽しい時間にするべき話では無いと思ったけれど
いつもと同じく笑顔なのが逆に不安で聞いてしまった
「低価格戦争、ですって」
うん、と変わらない調子で答えてじょうろを更に深く傾けながらモスバーガーは小さく笑った
「なんだか物騒な言い方だよね」
しゃがんでから、ね、と更に同意を求めるように首を傾げた青年に自然笑顔になって
自分も隣に座って黙ったまま二人でプランターを見る
さて、と暫くして呟かれた言葉に自分が目を向ける前に
隣のモスバーガーは立ち上がる
「行ってきます」
行ってらっしゃい、と笑顔で返したけれど歩いていく背中を見ないで自分はプランターの前でしゃがんだままでいた
クリスマスまでになんとか収まってほしいと思う
今年の電飾はどうしようかと去年取り外しながら言っていたのを思い出して、
自分も頑張ろうと思いながら立ち上がった
「どうする訳」
落ち着いている親友が珍しく焦っているのに、驚いた
多分自分以外には気づかれないのだろうけれど、おはちは随分と焦った顔をしている
「何が」
聞きながら火を点けようとライターを探していたら、咥えていた煙草を取られた
反抗しようとした目の前にメモが突きつけられる
その話か、と理解して言った
「俺は、俺」
フレッシュネス、と苛立ったようにおはちは呟きながら奪った煙草を無造作に投げる
情けない悲鳴をあげたところを睨みつけた
「この機会にイメージを変えるのは」
「今手を出してぐらついたら一気にマクドナルドの独り勝ちでしょ」
落ち着けって、とバンダナを取り去っておはちの頭をくしゃくしゃと撫でると
漸く小ばかにしたような顔が戻ってきた
「逆に自分らしくして、何も変えない方がいいじゃねーか
元々の客を離さなければそれが負けないこと、と勝つことに繋がるだろ」
淡々と確信を持って言われた言葉に少しずつ自分が落ち着きを取り戻してきたのをおはちは感じた
フレッシュネスの言う通り、ここでマクドナルドの挑発に乗るのは良くない
それに、と付け加えたフレッシュネスを半分ほど尊敬を込めながら見ると指を目の前に突きつけられた
「禁煙席にはしないぞ」
脱力したおはちの肩を叩いて、いざとなったらお前になんとかしてもらうし、と笑ったフレッシュネスの手から
バンダナを取り返してきっちりと被りなおしおはちは呟く
「方針が決まった」
フレッシュネスに暫く使っていなかった自分のライターを投げてやる
「俺たちは、俺たち」
そうこなきゃ、と二本目の煙草を取り出してフレッシュネスは笑った
1994年3月、マクドナルドの"バリュー作戦"によりファーストフード業界を巻き込んだ低価格戦争が開始。
頂いて読み終わったあとびびりすぎて固まった。
キャラクター掴みすぎてて、最早あたしよりわかってるんじゃないかと思います
私もいつか低価格戦争ネタをやりたいと思っていて、その話題からこの話を
書いてくれたんですが、なんかもうあたし、満足 だよ…
えむの書くこいつらが好きだ!
ほんとうにありがとうございました〜〜
勝手に装飾してみました、すみません……