俳句四季年間競泳
2001,7月号
桜山
雪連山桜の山の小さかり
落雁をほろほろこぼす桜山
染井吉野男女ゆるやかなる斜面
春コートさらさら君の羽音かな
裏山は桜吹雪の動物園
駝鳥ふと朧ながめてとまる足
心配をかけし母が桜狩る
春宵のネオンいちいち音読す
桜山黒い画用紙に描きなさい
幼らの寝息の中を落花かな
芽吹くのは誰音楽は流れる
熟睡を抱いておりぬ桜月
8月号
こいのぼり
竹秋の丘近づけば光ってくる
母の意思時々うすくみどりの日
点滴の音の大きく春眠す
病室や家族そろいし初西瓜
母の目の八十八夜きれいな空
抽斗に母は幻の鰈干す
あめんぼのペダルとまって考える
こいのぼり母を忘れていたりけり
もうちょっと生きていようよ新樹の夜
母の日や姉はゆっくり母叱る
ミルク飲む母よ夏ぎぬ替えようね
留守中の家に朝顔蒔いてゆく
9月号
背の蛍
長き髪茅花流しの風にのせ
左手のちょっとよごれて青蛙
抱く子の午睡ぐわんと重くなる
ツベルクリン反応陰性の腕が撃つ
寝返るとき白き形代見てしまう
父の背に蛍ついても黙っている
バナナ売り野球にかまける小さき耳
冷蔵庫の卵置き場的ひとりきり
青水無月子らにウクレレの作り方
夏の月いちばんあかるい指の先
桜桃忌今夜何度もゆでこぼす
出航をいくつながめる夏帽子
10月号
クロール
釣り堀やひらがなみたいに人かがむ
炎天の帆をはらませて猫駆ける
鬼灯市すこし離れて床屋の灯
蛙鳴く小暗き闇のここちよく
年取るとなんだかあつまる夏の星
クロールの腕夫忘れ親忘れ
夏鴨も二本足にて上陸す
花茣蓙やからだが風になっていく
釣り人をながめる人のすずしさよ
鬼のつくやんまちちはは恋うるかな
海の日のただ早起きをしていたる
朝顔が開く東京出勤す
11月号
アメリカの野球
どうしても朝顔の巻きつく自転車
梅干して家族眠っていたりけり
昼寝する父のおなかをブリキ船
夏座敷いつのまに父も母もいない
昼花火一回鳴りし空を見る
行列の谷間に少女金魚提げ
よびすての男のありぬ蝉しぐれ
わが部屋を金魚玉からのぞくかな
舌触れる親不知という晩夏
盆踊り抜け出る肘の白さかな
アメリカの野球の話生身魂
真っ暗な波打ち際や盆踊り
12月号
薔薇窓
ゆく夏の髪美容士の手が入る
血管の透くたなごころ虫の籠
薔薇窓は今日も晴れてる震災忌
逃げる身のこぼれつづける一位の実
赤のまんまフライ捕るときふまないで
擂り鉢を抑える手がないとろろ汁
露けしや後ろを向いているけもの
霧抜けて月の高さにホテルあり
団欒の真上に秋の雲がゆく
防犯カメラの稲田もっともそよぐ
茶箪笥に母の夜長のありにけり
満腹で渡りし橋や彼岸花
1月号
口のかたち
ままごとの玄関あたり彼岸花
テレビニュースの上のマリモや秋の水
泣きやんで見えはじめたる花野かな
花野出てすぐ商店街となりにけり
団栗の入れ物としてこども靴
無口なる口が開きし新豆腐
手枕の父を月光ふりそそぐ
鮭あまたやさしい顔の見あたらぬ
空耳や秋夕焼けに茶碗の音
ナイロンの布に包まれ運動会
えのころやかばんの傷が見えなくなった
蔦紅葉信用金庫にびっしりと
2月号
雫のごとく
手袋の指先雫のごとき余り
革手袋一指かならずうらがえる
小春日のよろず屋柩出でにけり
半島をぐるりとまわる葬の列
冬の人背広の縞にかくれいる
茶碗という不思議な曲線冬の蠅
喪服より半襟はずす灯下かな
冬の家耳から眠ってゆきにけり
あざらしのからだまるごと無月かな
パンを持つ右手左手ぼたん雪
借りて着る革ジャンパーのポケットに飴
紅葉かつ散る空色にぬるおもちゃ箱
3月号
目盛り強
冬日向眠り続ける犬の親
風邪寝ふと桃の缶詰開ける音
狐火やときどきものにうとまれる
傘さして大根一本抜きにゆく
塩つまむ親指中指しぐるるや
冬至より明日が明るいゆでたまご
病院の売店にあるクリスマス
返すあてなし暖房の目盛り強
耳袋している耳に耳打ちす
ローマ字のふりがなに雪日本海
一瞬間とおりすがりの置火鉢
年の夜やみしらぬ鍵のふえている
4月号
ほろ甘く
年寄りが集まる家の淑気かな
厄を持つ人らにこにこ着膨れて
紅顔が何度ものぞく眠る山
スケートの髪ひるがえる富士額
耳袋みなつけて乗る夜のバス
唇を噛めば寒紅ほろ甘き
マフラーの板前むせび泣く運河
剥離せしところゆっくり冬の蠅
白鳥のへっぴり腰というかたち
寒椿鈴を鳴らして散りにけり
北向きの部屋を明るくぼたん雪
美しい心電図です富士真白
5月号
一等賞
手を洗うあいだ見ている冬の森
父の目はオリオン座しかみえない
半纏の前かき合わせ逢いにゆく
和蝋燭の袋手渡す都鳥
寒鯉やわがかたかたの聞こえるか
寒星降る象の子のしわくちゃのまぶた
わたくしの影はこな雪のさらさら
バスガイド雪歌うとき目をつむる
あんパンを割る雪降る音の中
ルールからはみでるはみでるぼたん雪
セーター脱ぐ一等賞みたいに手を上げて
雑炊を吹くにんげんでありがとう
6月号
桜咲く
初蝶が自転車よろけさせるかな
ふらここやただみつめているだけのゆれ
はこべ野によろこべばねころぶからだ
欲しいかと聞く卒業の金ボタン
花祭雌雄別れてひよこ鳴く
引越の荷の桃源郷で立ち止まる
もの掛ける釘の高低春の家
春眠の母を幼児が不思議そう
ものの芽やガーゼ替えたくてたまらない
花のころ蛇口もちょっと馬鹿である
犬連れて蜃気楼の中に入る
泣きやみし帰りは桜咲いている