◇立会い出産
陣痛が始まってから出産までのドキュメンタリーです。動揺してたとはいえ、結構しっかり覚えてました。
妻の出産予定日は7月28日-私の誕生日と同じ日-だった。妊娠発覚後、妻が産婦人科で出産予定日を聞いてきた時はそれはもうビックリ。「まさかあなたと同じ誕生日なんてねー。」「でも、もし同じ日に生まれるなんて事があったらそれはもう、この上ない誕生日プレゼントだよー。」などと、9ヵ月後の事を期待して盛り上がっていたのだ。
しかし、予定日を2週間きる頃になると「うーん、まだ産まれる気配がないねぇ。おそらく予定日過ぎそうだよ。7月中に産まれればいいのになぁ。」と、ある程度妥協が入り、予定日の7月28日になっても一向に産まれてこなかった日には、この子は本当に出てくる気があるのだろうか?と余計な心配をするようになっていた。
8月に突入し、あと数日待って陣痛が来なかったら「促進剤」を使おうかというところまで来ていた時だった。
8月2日 22:50
予定日から5日過ぎたこの日の夜、うたた寝から起きてみると何か様子が慌ただしい。すぐにピンときた。「もしかして陣痛始まった?」妻に聞いてみるとどうやらそうらしい。ついに陣痛が来たのだ!妻曰く、急に激しい痛みが襲ってきて、30秒〜1分くらいでおさまったとの事。
陣痛の時は間隔が重要だと聞いている。メモを取らなくちゃと思い、メモ帳を探すんだけどなかなか見つからない。それなりに心構えをしていたのに実際に始まると動揺してしまった。とりあえずカバンの中に入っていたコピー用紙を取り出し、その裏にメモを取り始めた。
2回目の陣痛の波が来た。時間は23:10。間隔は20分だ。お義母さんが「これは今夜生まれそうだね。いつでも病院に行けるように準備しちゃいなさい。」と言うので、先にシャワーを浴びてくることにした。シャワーを浴びてあがってくると、その間にまた痛みがあったらしい。時間は23:30。まだ間隔が20分くらいあるので、妻もシャワーをすぐに浴びに行く。
妻がシャワーを浴びて出てくると、また痛みが始まった。お義母さんが妻の腰をさするが、ホントに痛そうだ。陣痛とはそれほどすごいものなのか・・・と恐縮してしまった。こればかりは代わってあげられないから、とにかく妻の痛みが少しでも早くおさまるように願うのみだった。
8月3日 0:00
今まで20分間隔できていた痛みの間隔が急に短くなった。10分程で痛みがくる。1時間で6回以上痛みがきたら病院に連絡することになっていたが、0:30までにあと2回痛みがきたら電話しようと決め、様子を伺ってみる。すると予測どおり2回痛みがきたため、妻が病院に連絡を入れる。状況を伝えると「それでは病院に来て下さい」という話になったので、入院準備用具一式を持ち、一同車で病院に向かった。
病院に向かう車の中でも、妻の陣痛の痛みは起こる。運転に気を使いつつも痛みの起こった時間のメモは取る。5〜10分前後の間隔になっている。ちょっとペースが速いな・・・。普通間隔ってこんなに急激に短くなるものなのだろうか?とにかく早く病院にたどり着きたい・・・。あせる気持ちを抑えつつ慎重に、でも飛ばし気味で車を走らせた。
8月3日 1:00
病院に到着。夜間救急入口前まで車を回し、妻とお義母さんを先に降ろす。この時も動揺していた為、車を縁石に乗り上げてしまった。えーい、それどころではない。早く行かねばっ。何とか車を駐車スペースに停めた後、救急入口から妻たちのあとを追う。病院は静まり返っていた。妻たちと合流し、迎えに来た看護師さんと共にエレベーターで6Fに向かう。
するとまた妻の痛みがやってきた。「また陣痛がきました・・・・」痛みに耐えながら妻が言うと、「落ち着いて。大きく深呼吸をしてください。」と冷静にアドバイスをする看護師さん。うーん、落ち着いているな・・さすがに場数を踏んでいるだけあるよ。ちょっとのことじゃ動揺しないんだな・・などと当たり前のことに感心する。
6Fに行くと、妻だけ相談室のようなところへ通され、残された二人は廊下のベンチで待たされた。「とりあえずここまで来ちゃえば何があっても大丈夫だから安心だね。」「でもこのあと、うちらは一度家に帰されるのかなぁ。」「どうだろうね・・。」そんなことを話しながらひたすら待つ二人。フロアには時々、生後数日しか経ってないであろう赤ちゃんの泣き声が聞こえ、その赤ちゃんをあやす新米ママの姿が見かけられる。
しばらくすると看護師さん(のちに助産師さんだとわかる)がやってきて「それではご家族の方、こちらにお入り下さい。」と、妻がいる部屋に案内された。妻は既に病院の服に着替え終わっていた。助産師さんが説明を始めた。「おそらく今日には産まれると思いますので、このまま入院してもらいます。ご家族の方は一度お戻りになって、出産近くになったらご連絡を差し上げるようにしますが・・・、あっ、ご主人は立会いされるんでしたね。どうされますか?」「だいたいどれくらいで産まれそうですか?」「そうですね・・・初産ですから結構時間がかかると思いますので、今日の午前中からお昼ごろでしょうか・・。」
私は妻が心配なので、病院に一緒にいることにした。立会者以外は一緒に居る事が出来ないという事で、お義母さんは一度自宅に帰ることになった。「娘を支えてあげてね。あの子かなり痛がると思うから。それじゃあ・・・よろしくお願いします。」そう言い残し、お義母さんは帰っていった。
どうやら今夜は陣痛室がいっぱいのようだ。そのため直接分娩室で待機するように言われる。妻は分娩台の上に座らされ、お腹に赤ちゃんの心音がわかる器具を付けられた。
「もし、床のほうが楽だったら床にマットを敷きますけどどうしますか?」と助産師さん。妻は「しばらくここ(分娩台)にいます」といい、分娩台の上に留まった。
このあと、GBS感染を防ぐための点滴をうち始める。妻の陣痛の間隔の速さとは対照的に、ポタリ。ポタリ。とゆっくり落ちる点滴。産まれるまでにこの点滴は本当に終わるのだろうか?と心配になってくる。
妻の痛みは更に激しさを増しているようだ。これは不安定な分娩台の上より床の上のほうがいいなと判断し、床にマットを敷いてもらいその上に移動してもらった。
痛みは2分から7分くらいの間隔で止まることなくやってくる。妻に言われるがままに腰をさすったり、押したり、飲み物を飲ませたりする。妻もあまりの痛さにまわりに気を使う余裕など無い様だ。
8月3日 2:30
陣痛が始まってから3時間半。妻はいきみたくなったようで、我慢できずナースコールを押す。なんか早くないか?今日のお昼頃産まれるって言ってなかったっけ?すぐに助産師さんがやってきた。「どうしましたか?」「すみません・・・いきみたいんですけど・・・!」「そうですか。じゃあ、ゆっくり分娩台にあがりましょうかね。」「は・・い・・・」痛みの波がおさまっている合間にゆっくりと分娩台に向かう妻。すると「あっ・・・なんか水がおりてきた感じがします・・。」「うん、破水しましたかね。じゃあ、上にあがったら子宮口を見てみましょう。」ついに破水!?時間は2:38。いよいよ出産が始まるのかと思うとドキドキしてくる。
子宮口は既に10cm近く開いていた。思った以上に早かったらしい。分娩室は慌ただしくなりもう一人やってきた看護師さんが準備を始める。ふと顔を上げると、GBSの点滴がまだ終わっていない事に気がついた。これ、ホントに大丈夫か?早く点滴終わらないともうじき産まれちゃいそうだよ・・・!こちらの心配はよそにお産は着実に進行している。どうやら先ほどの破水は勘違いだったようだ。妻の羊膜は結構丈夫でなかなか破けないので、次にいきむ時に破水させる事になった。
「破水」した時っていうのは水風船を割った時のように水がたくさん出るものだと想像していた。だから破水させたら床が羊水だらけになるのではないか・・と思っていたけど、実際はそうではなかった。破水させた時も、妻の頭側に立っていたら全然わからなかった。でも、これで赤ちゃんの頭が少し降りてきたらしい。こうなればもう少しだ。分娩室には宿直の先生と看護師さんが加わり、助産師さんと3人で赤ちゃんを取り上げる準備をする。
「はい、いきんで下さい。目をつぶらないで、頭を上げて自分のおへそを見るように頑張ってください。」
私が同じような事をアドバイスしても聞き入れない(っていうかそれどころじゃない)妻なのに、助産師さんや看護師さんが落ち着いた声でアドバイスをすると、自然とその指示に従うから不思議だ。
8月3日 3:05
看護師さんが「3時かぁ・・半までに産まれるといいねー。」と言った。赤ちゃんはもうすぐそこまで来ている。子宮口から頭が見えてきたようだ。
「ご主人さん、頭が少し見えてますよ。見てみますか?」と言われ少しだけ覗いてみる。ホントだ。頭が見えてる!結構髪の毛も黒々してるよ!頑張れ妻!赤ちゃんとのご対面はもうすぐだぞ。
それから約20分間はもう、壮絶な戦いだった。痛みをこらえて力を入れ必死に産み出そうとする妻。いきむ度に少しずつ出てきては力を抜くとまた引っ込んでいく。「3歩進んで2歩下がる」みたいなもんだ。そんな行程を何度となく繰り返す。
「次にいきむ時に会陰切開をしますけどいいですか?」「・・は・・い!」「そうしたらもう産まれますからねー。はい、じゃあいきんで下さい!」「んんっ!!・・・」
その時、どうやって会陰切開したのかはわからない。でも、その瞬間のことははっきりと覚えている。「はい、出てきましたよー!」と助産師さんが言うと、看護師さんが妻に力を抜くように言った。握りバーから手を離すと妻の体から力がすっと抜けた。そして、妻のお腹のむこうでは・・・取り出された赤ちゃんが元気な産声をあげていた。
その声を聴いた瞬間、自然と涙があふれ出てきた。もう止まらなかった。
妻のほうを見ると、そこには今までの緊迫した表情はもうなかった。ほっとしたその顔は既に「母親」になっていた。それを見てまた涙があふれた。妻に「よく頑張ったね・・・ありがとう・・・!」と伝えるのが精一杯だった。
8月3日午前3時26分、無事女児出産。